道化が見た世界

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共通点探しの落とし穴

コミュニケーションの正攻法、他者と心理的距離感を縮めて親しくなる手段、これはやはり、それぞれの共通点を探すことであると結論付けることができる。例えば、地元が近かったり、年齢が近かったり、好きなアイドルが一緒だったり、食べ物のアレルギーが一緒だったり、誕生日が一緒だったり(運命的ですらある!)、後半述べた共通項は非常に稀であるにしろ、とにかくその他者との擬似的な同化が図れる話題は、彼らの距離感を漸進的にあるいは急進的に接近させる。

 

しかし、この一見正攻法に見えるコミュニケーション方法が、実は正攻法でない理由。当ブログを日常的に熟読玩味している奇特な読者諸賢なら分かるはずである。分かって然るべきである。えっ?なに?ん?分かりかねる?はいはい、そういうのイイから。えっ?ホントに?ガチ?本気と書いてマジじゃなくてガチ?、、それならば致し方がない、説明しよう。

 

その理由は単純明快。一見簡単そうに見える、共通点探し。しかし、実のところ、自己と他者の共通点が見つかることはごく稀なのである。さらに、その共通点を探す場合、当然だが質問をして、その答えを聞きコミュニケーションを進めることになるが、このフェーズのコミュニケーションで運良く一つ二つの質問によって共通点が見つかればよいが、そうでない場合、一問一答のコミュニケーションになりやすく、つまり、この令和元年の時代には似つかわしくないお見合い的なそれになりやすく、ありていに言ってしまえば、とてもつまらないコミュニケーションに堕してしまう危険性をはらんでいるのである。

 

さらに、このコミュニケーション方法を軸にして会話を展開してしまうと、自分の趣味と合わない人は話が盛り上がらない人、一緒にいて楽しくない人、気が合わない人という判断をその個人に下してしまう、逆説的に会話において自助努力をしようとしないとてもつまらない人間になってしまう危険性をもはらんでいるのである。故に私個人の一つの結論としては、会話において共通点が一つでも見つかればラッキー、共通点の一つ一つを宝物として辛抱強く探し続けるスタンスが肝要であるというものである。

 

そして、というかこれが私の今回一番述べたかった箇所なのだが、たとえその宝物である、神様からの授かり物である共通点が見つかったとしても、かえってそれが二人の仲を決裂させる結果を招いてしまう危険性があるのだ。

 

私は野球観戦が好きであり、一介の愛すべき巨人ファンである。巨人が勝てば一人狂喜乱舞し、巨人が負ければ一人阿鼻叫喚する。そして、広島カープに巨人が敗北を喫した場合においては全ての憎悪・憤怒・怨恨を一旦自己の丹田あたりに集めて濃縮したのちに一気に解放させ肉体的・精神的に失禁してしまう。

 

さて、私の目の前にうら若き籠絡すべき乙女が一人座している。私は彼女を小気味好い会話で楽しませながら、それとなく質問をする。「ところでスポーツは好きでおられますか。私は野球観戦が好きです」、と。すると彼女は少し驚いた表情でこちらを見すえながら「えっ、本当ですか。私も野球観戦が好きですよ」といささか高揚しながら答える。見つけた、私は確信する。宝物、見ぃつけた、と。そして私は宝石の様に輝く彼女の大きな瞳を見つめながら重ねて前のめりに質問をする。「それは奇遇ですね。どちらのファンですか。私は巨人ファンです」、と。すると彼女は一拍置いて答える。

 

 

 

広島ファンです」

 

 

 

うんアナタとは結婚できない!!!

 

 

私の両親がそれぞれ巨人とヤクルトのファンだったのもあり、いかに非生産的な喧嘩が繰り広げられてきたのかは言うに及ばず、もし私が彼女と結婚した場合、間違いなく再び非生産的で無意味な喧嘩が繰り広げられるであろうことは自明である。歴史は繰り返される。

 

さらに何が悪いかと言えば、お互いがセ・リーグ球団のファンであるということである。パ・リーグのファンであれば、巨人と争うことになる局面は交流戦日本シリーズに限られ傷は浅い。

 

さらに、私が巨人を応援する情熱と、彼女が広島を応援する情熱とが一致していなければ、まだ傷は浅い。私が熱狂していたとしても、彼女の熱が私より低ければ、はいはいよかったねという感情でさばききれるからである。しかし、その情熱が同量のもので、巨人広島の直接対決、点の取り合いのシーソーゲーム、一喜一憂の応酬、一罵詈一雑言の応酬、この極限の状況において、ついに、私は悟るのである。「共通の趣味、クソくらえ」、と。あまつさえ、これはホラーですらあるが、彼女にどのようにして野球を好きになったのか尋ねた時、「元彼が広島ファンで、その影響」なぞとのたまった場合、広島が得点するたびに、彼女が喜ぶその横顔を見るたびに、私の脳裏にその元彼のフェイスがサブリミナル効果のように飛来し、最早交際続行不可能の状態に陥るであろう。結婚していた場合においては離婚事由になるであろう。

おわかりいただけただろうか。かかる危険性が、共通点にははらんでいるのだ、ということに。

 

そして最後にこの場を借りて、声を大にして伝えたいことがある。私のシュプレヒコールよ、皆に届け!

 

 

巨人、日本シリーズ優勝!!

信じてる!!