道化が見た世界

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カリスマ転校生、FUKUDA君

僕が小学三年生の頃にFUKUDA君は転校生として学校にやってきた。彼とクラスが一緒になったのは彼が転校してきてから一年後だったと思うが、彼はとにかく目立っていて異彩を放つカリスマ的存在だった。

まずイケメンであった。そして運動神経が抜群に良く、足も速く、すぐさま運動会でリレーの選手に抜擢され、普通に上の学年の先輩よりも速かった。体育の水泳の授業では常軌を逸した速さで25mを泳いでいた。

加えて頭も良かった。4年生の時に算数の授業で100マス計算という、マス目状に空欄になった九九を解いてタイムアタックする決まった時間があり、それを毎時間やっていたのだが、決まってFUKUDA君がクラスの誰よりも一番速く解き終わって手を挙げて、ストップウォッチで時間を測っている先生がそのタイムを告げていた。FUKUDA君は常に1分フラットで、僕はどれだけ頑張っても2分は掛かってしまい、ついぞその時間を縮めることは叶わなかった。

更に絵も上手かった。常軌を逸して上手かったので逆に浮いていた。休み時間に自由帳に書いていたデジモン、ウォーグレイモンとシルバーガルルモンがめちゃくちゃカッコ良かった。僕はそこで絵に影を付けることによってリアリティを出すという技法を学んだ。

彼が書く字も特徴的で、なにか親しみが湧いてくるような、丸みを帯びた面白い字体だった。僕は彼の影響で彼の字を思い切りに真似た。模倣の努力が功を奏して、だんだんと僕の字は彼ソックリの字体になっていって、僕はそれをとても嬉しく思った。

学芸会では、彼は主役級の役に抜擢された。色々な星に住む人種が一堂に会して、それぞれが自分の星で最も大切な宝物を発表して、どの宝物が最も優れているか競うという筋書きの物語で、その脚本が僕の学校オリジナルのものだったのかは未だに分からないが、僕は彼と同じ星、ウォーズマニア連邦という星の同胞で、彼がリーダーだった。ウォーズマニア連邦は戦争が大好きな星の人種で、そんな彼らの最も大切な宝物は、どんなモノをも破壊してしまう巨大な爆弾だった。その巨大な爆弾は、巨大な固い段ボールの表面に色々な壊れた鉄製のゴミや道具を持ってきて貼り付けて、最後にシルバースプレーを吹きかけてメカニック感を出して先生と一緒に作った。僕のセリフは「113番!ウォーズマニア連邦の宝!」だけだったが、FUKUDA君はその爆弾がいかに凄いか滔々と語り、何かの拍子にそれが誤作動してしまい会場が一時騒然となる一悶着も演じきり、そのとても長いセリフをリーダー然とした風格でやりきっていた。

そして、彼はいい意味でとても変わった人で、面白い人間だった。僕が覚えている印象的な会話のうちの一つは、彼が給食を食べながら、うわ〜なんだこれ!ゴキブリの味がする!と言った。僕はそれに対して何気なく、なんだそれ!と言った。すると彼は、いや!けんちゃん違うよ!そこは、いやゴキブリ食べたことあんのかよ!って言わないと!、と返してきた。彼は僕に望ましいツッコミをさせるために敢えてゴキブリの味がする!と言ったのである。僕が望ましい返答をしなかったから、FUKUDA君は他の違った女子のクラスメイトに、同じボケを放って、その時ちょうどその女子が、いやあんたゴキブリ食べたことあんの?!と笑いながらツッコミを入れたので、彼は嬉々として両手を広げ、彼女をハグしようとしていた。

しかし僕は転校してきたばかりのFUKUDA君のことを、つまり四年生になって同じクラスになり仲良くなる前に、とっつきにくい、どちらかと言うと苦手なタイプな人間だと思っていた。なんで最初はそんな印象があったのかと思い返してみると、確か僕が彼にいじられて恥ずかしくなったからだと思う。僕は当時、トイレに行っておしっこをする時、半ズボンのチャックを開けずに、片方の裾をまくしあげて、かなり不格好におしっこするスタイルだったのだが、それをたまたま見た彼は口を抑えながらも爆笑し、それは絶対におかしいよ、え、ずっとその方法でおしっこしてたの、と執拗に僕に問いて来て、僕はそれがとても恥ずかしかったのを覚えている。

だから僕にとって彼の最初の印象は好ましいモノではなく、4年生になって同じクラスになったらどうしてあんなに仲良くなれたのかもあまり分からない。ただ、彼が人懐っこく僕にしゃべりかけてくれていた気がする。何故そうしてくれたのかは分からない。そこから僕たちは雪解けして、僕は彼という存在をいくらか尊敬の念で見て、少しでも彼を模倣して、同化したいと思っていたのかもしれない。彼と僕がしゃべっている時、彼はいくらか俯瞰してちょっと上に立ってしゃべっている感じで、けれど、別にそれは嫌悪感を与えるモノでもなくて、僕には見えていない道が見えているようで、そう比べると僕はすごいガキっぽかったと思う。大人っぽいのかと思えば彼は無邪気に変なこともするし、僕がいつも笑いながらFUKUDA何してんだよと言っていた気もする。彼が当時僕の好きだった子をからかってるのを見ると、なんとも言えない気持ちになると同時に、こういう風に接すればいいのかと勉強しているようでもあった。

下校時はだいたいいつもFUKUDA君と一緒に帰っていたと思う。僕の誕生日には、彼は遊戯王のめちゃくちゃ強いカードをくれた。コナミ遊戯王では無かった時代の、六芒星の呪縛という相手モンスターの攻撃力を0にする最強カードがあるのだが、彼はそれを惜しむことなく普通にくれた。加えてジャンプフェスタに行かないと貰えない未開封の限定パックも何枚もくれた。

学年が一つ上がって五年生になりFUKUDA君はまた転校しなくてはいけなくなってしまって、僕たちは別れた。そして僕も親の仕事の関係でインドに行くことになってしまった。それ以来、彼とはなんの連絡も取っていないが、ふと彼のことを、三十路になった今になって思い出した。それは僕とカリスマとの不思議な関係性だった。

 

(追記)

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当時の思い出の品がなにかないか部屋を探していたら、四年生の頃にクラス全員から貰ったクリスマスメッセージ集が出てきた。その中でFUKUDA君から貰ったメッセージが上の写真である。因みに、おみくじの部分はめくれるようになっていて、めくると「ミラクルハイパースーパー超大吉」と書かれている。