道化が見た世界

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「面白い文章」の書き方

一昔前に、「侍魂」を主とする「テキストサイト」が流行した。自らが書く文章をサイトのメインコンテンツとし、文字の大きさや色を変化させる等の多様な工夫がなされたものだった。


誰にでも分かることだが、テキストサイトを立ち上げる人間は、自分の文章力に相応の自負が無ければ駄目だし、それを他者に披露することによってエンターテインさせようとする気概が無ければ早々できるものではない。昨今、各所で個人ブログが乱立しているが、その九割は、自己顕示欲を満たす為の簡易なオナニー・プレイスであるというのが、現実であろう。


初歩的で、当たり前のことだが、そもそものモチーブとして「人をエンターテインさせたい」という純然たる内的欲求がなければ、「面白い文章」は書けない。エンターテインさせる為の手段としての文章。先立ってそういう認識が無いといけない。


違う方面に話を掘り下げてしまうが、大抵の人間は、そもそもその原初としてのモチベーション(人をエンターテインさせたい)を持っていない。副次的な帰結として「人が楽しんでくれれば良いな、幸せになってくれれば良いな」と思う人はいるが、それを初期段階で目的に据えて邁進する人は、ある意味で変わっているのである(私は劣等感がその源泉にあると踏んでいるが)。


脱線してしまったが、「面白い文章」の書き方として、恰好のお手本となるブログを紹介したい。


知る人ぞ知る、水野敬也氏の「ウケる日記」(http://ameblo.jp/mizunokeiya/)である。本人が「日本一面白いブログ・・・というのはちょっと言い過ぎか」と予防線を入れつつ豪語するくらいであるから、そりゃもう、本当に面白いのである。


水野敬也氏の文章・スタイルは、テキストサイトのそれを踏襲していると言って良いだろう。誰でも簡単に読める平易な文体(小林昌平氏が言うところの「ローコンテキスト」的文体)、フォントサイズでの強調、改行、画像や図を挟むことによってビジュアル的シュールさの演出、等々。面白い文章を書く為のエッセンスがほぼ詰まっていると言っても過言ではなく、同氏が駆使する技術を「パクる」ことが最短距離のスキル向上である、とさえ言える。


しかし、そこには大きな落とし穴があって、テキストサイト調の文章というものは、その人自身のユーモアセンスを直截的に露呈させてしまう。つまり、「ごまかしが効かない」のである。


例えば、「文字の大きさを変えて強調する」という技があるが、これは自分が文脈的に面白いと思っているフレーズを正面切ってドーーーン!!と「自覚的」に持ってくるものである。故に、これを完全にハズしてしまうと、その時点で完全にアウトなのだ(ユーモア的にも人間的にも)。


この技は最も基本的でありながら、最もリスキーな技であり、逆に言うと、大文字で強調しているフレーズに対して「なにこれサブい」と感じたのであれば、その書き手が包括的にサブい人間であることの証左になってしまうのである。


しかし、個人的にはそういった黒歴史的文章を沢山読みたいので、「面白い文章」を書きたいと思っている人は、ハードルを上げて「テキストサイト調ブログ」を目指すべきである。


そして、文章のそもそもの核となる「ネタ」は、路傍の石ころの様にそこらじゅうに転がっている訳ではない。感性が特殊な人であれば、自分の日常をツラツラと書いていても(無意識的に)面白いものが出来上がると思うが、大多数はそうではないから、「事前にアンテナを立てて面白いことを探す」必要がある。因みに私は、ブログのネタになるだろうという一心で、新興宗教的集団の本拠地に乗り込んだことがある(過去記事「カルト宗教団体 VS 俺」http://d.hatena.ne.jp/kent-0106/20100323/1269353752)。


ネタが見つかったら、後はそれを「テキストサイト調」に文章化し、コーティングすれば良い。その際に自らのユーモアセンスに懐疑的になる必要は皆目ない。むしろ、「狙っちゃってる感」を全面的に解放して開き直るぐらいが丁度良い。最悪、「うわ、こいつサブい」と思われた場合には、


「貴方が私の高尚なユーモアについて来れないサブいサブキャラなだけ」
と責任転嫁し逃げ切る方法もある。お前の愚鈍な感受性を呪え、と。そうすれば、差し当たりの抑圧は排除できるだろう。


これまで述べてきた事をまとめると、


1、「エンターテインさせたい」という根源的欲求の所持
(それを目的ではなく手段【モテる為etc】として用いても良いが、良質なユーモアというのは部分的にでも目的に足を浸かっていないと生まれない、と思う。)


2、テキストサイト調の文章で書く
(あえてハードルを上げて書いてみる。サブくても開き直れるぐらいの解放感で書く。)


3、ネタを拾う為に、常にアンテナを起動させておく
(ネタの為に生きてみる。)


4、スベったら責任転嫁して逃げる


今回は、例によって例のごとく、方法論的内容に終始したが、次回は、水野敬也氏の「ウケる日記」を教材に、「面白い」文章の奥深さに迫っていきたい。