道化が見た世界

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最近キレたエピソード

本田少年は、週刊少年ジャンプに掲載されていた「デスノート」という漫画が好きだった。
デスノートが映画化した際には、すぐさま映画館に足を運び、限定グッズを買い占めていた。
その中でも特にお気に入りだったものが、「デスノート・ブレスレット」である。



ある朝、そのブレスレットを取りにリビングルームへ向かったのだが、何故か、前日まで置いてあった所定の場所にそれが無い。
本田少年は不可解に思い、リビングルームをくまなく探したが、やはりそのブレスレットは何処にも見当たらなかった。
彼は傷心し、苦しまぎれにキッチンへ向かった。するとそこで、彼は自身の目を疑った。









・・・・・・!?









・・・えっこれ俺の・・・










本田少年は虚脱した。





誰が、何の意図をもって、自分のブレスレットをバラバラに切断するに至ったのか、不可解極まりないバラバラ・ブレスレット事件(BB事件)の真相を、本田少年は知りたかった。そこで偶然、彼の母がリビングルームにやってきたので、彼は彼女に「これ、なに?」と尋ねた。すると母は、軽快に言った。



「ああ、これ。前からキッチンの蛇口の取っ手部分が緩んでたじゃない?」





「だからそれに使った」




本田少年は慄然とし、「はあ?いや、これ、俺の、ブレスレットなんすけど」と続けると、母は更に軽快な口調で「ああ、ごめんごめん☆(テヘペロ)まあ、でもこの取っ手使いにくかったし、直ってよかったじゃない。実際修理してもらうと何万円と掛かるし。」と、さもそれが、修復の為には必要な犠牲であったかのように、最小限の犠牲で済んだことを誇らしげに語るようであった。故に本田少年は、当然の帰結として、キレた。



「お前、っざっけんじゃねえよ!」



するとすかさず母もキレた。というのも、母は母で、親に対して子が「お前」という言葉を使うことが許せなかったのである。しかし、本田も本田で、キレているので母のそのキレを斟酌できるはずもない。そして母は怒りを交えて、こう続けた。



「だいたいね、そんな大事なモノだったら、リビングじゃなくて自分の部屋にちゃんとしまっておきなさい。」





「故にリビング置いていたお前が悪い」




本田少年は開き直る母への怒りのあまり、精神的および肉体的に失禁しかけたが、失禁とキレの狭間を行き来しながら、母との言葉の応酬は続いた。そして、最終的に、母が、半ば疲労と諦観の表情でこう言った。



「はあ。はいはいもう分かった。」





「新しいの買えば良いんでしょ?」



ここに至って、本田少年のアンガー(Anger)・ボルテージは指数関数的速度で急上昇し、臨界点という点などとうに超え果て、その最高到達地点(パラロキシミテ)は奥行きの見えない宇宙の彼方へ、ただひたすら向かって行った。


本田少年は結局、「っざっけんじゃねえよ!」→「開き直ってんじゃねえよ!」→「そういう問題じゃねえよ!いらねえよ!」と一通り咆哮した後、コスモ的アンガーを静める為に、一旦、母との距離を置き、玄関に出て煙草を吸った。そうして、怒りがコスモからミクロに収斂してゆくのを悟った後に、再びリビングへ戻って行くと、開口一番で、母がPCを見ながらこう言った。



デスノート・ブレスレット、もう非売品だから5000円もしたわー。高。」
(購入ボタンを押しながら)