道化が見た世界

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そふとわきが

のっけから何を言うんだと思われると思うんですけど、僕って

 

ソフトなワキガ

 

なんですね。ワキガにソフトとかハードとかあんのかよ、コンタクトレンズみたいに言うなと思うんですけど、僕は本当にソフトなワキガなんですね。ハードではないほうの。これはある種のカミングアウトであって恥ずかしい独白でもあるんですけど、何故こうも声高に宣言する必要に駆られたかと申しますと、僕は一介のソフトワキガとして、世の同胞諸君に向けて、つまり、ワキガ一族の皆さまに一石を投じなければならないという使命を感じたからなのです。

 

僕は言うなれば、「自覚的」なワキガ一族の末裔でありまして、その中でも脇の臭いが割と「ソフト」な部類の人間です。どれくらいの臭いかと申しますと、シャワーを浴び終わって、Ag+を両脇にそれぞれ15秒ほど照射すれば、その日一日の臭いはまあ及第点、その日の運動量、汗のかき具合によってAg+に準ずる制汗スプレーの照射は適宜必要となってしまいますが、まあ及第点なのであります。

 

まとめますと、僕は自身のワキガに対してひどく敏感で「自覚的」であり、その比較的「ソフト」な臭いに対するケアも事前にマナーとしてすましており、他者への気遣い、自身の臭いによって不快な気持ちになる他者、指摘したくても気を遣ってできない他者、に対する繊細な姿勢を有している人間であるということです。

 

それでは、そんな僕が、ワキガの同胞諸君に向けて伝えたいこととは何か。率直に申し上げて、僕は怒っているのです。これは何も同族嫌悪の感情から申し上げていることでありません。そして、僕以外の、全ワキガ同胞諸君に対して怒っているわけでもありません。私達がかかる臭いを有してこの世に生を授かったことは、ありていに言って神様のいたずらであり、誰も欲しいと求めて授かった才能などではなく、勝手にオプションとして付いてきた返却希望のギフトであり、そこには深い同情心すらあります。

僕が怒っているのは、自身の「ハード」なワキガに対して「無自覚的」な人間です。「ハード」なのに「無自覚的」なワキガです。

 

 

 

 

気は確かか?

 

 

 

 

僕の怒りの全容は上記の5文字に集約されてると言ってよいです。さらにその怒りをひも解いてゆくと、まず第一に頭に飛来する言葉は、「なぜ、そんな鈍感なの?」です。

自称するのもおかしい話ですが、僕は繊細で敏感な青年であり、自分が無自覚的であることに人一倍の羞恥を感じる人間です。ですから、まずその鈍感さがうらやましくも憎らしくもあるわけです。

 

さらに、ワキガの十字架を背負っていないノンワキガの人達も私のように、「なぜ、気付かない?」と感ずることと思いますが、その感情と私が抱く感情の間には濃淡があり、と言いますのも、私は一介の自覚的ソフトワキガーとして、「何故、ソフトの俺ですら気付いているのに、ハードのお前は気付いてないんだ」という、

ワキガーとして上乗せされた黒々とした憤怒があるからです。ありていに言ってしまえば、

 

 

 

「なんでソフトワキガ―の俺がハードワキガ―のお前に気を遣わないといけないの?」

 

 

 

ということになるでしょう。ノンワキガの方々からすれば、なんかワキガ同士でいがみ合ってるんですけど、超ウケるんですけどクセェという滑稽な状況に映ってしまうと思いますが、僕は本当に無自覚的な彼らが理解ができないのです。

 

自分から発せられる臭いを感知するには、五感のうちの嗅覚が正常に機能している必要があります。例えば、臭いの話をすると必然的に汚い話になるのでご了承願いたいですが、自分がしたオナラを嗅ぐとします。クサいです。当然のようにクサいですよね?それを俺のオナラは全然無臭だと言い張ってプップしている人がいたら嫌ですよね?

もう一つ、自分がウンチをしたとしましょう。クサいです。当然のようにクサいですよね?それを俺のウンチは全然無臭だと言い張ってブリブリしている人がいたら嫌ですよね?

 

 

 

無自覚的ワキガ―はそういう人達です。

 

 

 

そして更に何が恐ろしいかと言えば、それは、自分の嗅覚と、他者の嗅覚との落差です。例えば、自分のしたオナラの臭いは、自分よりも他者が嗅いだ時のほうがクサく感じるでしょう。ウンチも然りで、自分がしたウンチのにおいを、自分が嗅いでもクサいでしょうが、他者が嗅いだ方がよりクサく感じられるでしょう。何故ならそこには「他者から発せられた」という圧倒的距離感があるからです。この理屈はワキガにも適用できるはずで、つまり、自分のワキガのにおいは、自分が嗅いでいるにおいよりも、数倍他者はくさく感じている、ということになります。しかし、無自覚的ワキガ―の人たちはそれを嗅覚で感知できていないのです。

 

 

 

気は確かか?

 

 

 

ここまできて、無自覚的ワキガ―の方々に対して一つのテーゼが浮かび上がってきます。それは、「ワキのにおいもおかしいが、その前に嗅覚もおかしい」という命題です。そして、無自覚的ワキガ―から自覚的ワキガ―(僕がここに所属しています)へとランクアップするためには、

 

1.正常な嗅覚を取り戻す

 

2.自分がワキガであることを自覚する

 

3.更にそのにおいが自分で嗅ぐよりもクサいことを自覚する

 

4.Ag+を毎朝両脇にそれぞれ25秒照射することの習慣化

 

このフォーステップを踏むことが必須であると考えています。自覚的になりさえすれば、事前にケアができますし、周囲に変な気遣いをされずに、不快な気持ちにもさせずに、快適なワキガ―ライフを満喫できるはずです。

 

僕は、謙虚な自覚的ソフトワキガ―ですが、よくワキガであることを周囲(ノンワキガー勢が調子に乗りやがって)にいじられ、あちらからこちらの脇を嗅いでくることもしばしば、それを僕は全力で阻止しながら、「やめろやめろ!ワキガだから!!」と脇を閉めながらのけぞるなどの一幕、どんだけ謙虚なワキガなんだと、謙虚なワキガってなんだよと、自分をホメてやりたい気分ではあります。

 

僕が最後に言えることは、ノンワキガもワキガも、ソフトでもハードでも、無自覚的であろうが自覚的であろうが、全ての人類が手を取り合ってAg+を照射し合える平和的社会の実現を心より祈っています。