道化が見た世界

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怒りの矛先

私が最も怒りに駆られる場面は、加害者が被害者に対して更なる害悪を自覚的/無自覚的に加えようとする時である。その傲慢で愚鈍な厚顔無恥加減に私は渾身の一撃を加えたいのである。


例えば、男Aが女Aに電車内で痴漢に及んだ際、男Aが言う。「女Aはミニスカートをはいていた。その服装は男の劣情をいたずらに喚起させた。そもそも、そういうファッションをしているということは、男を性的に挑発している自分を自覚している。ビッチだ。女が悪い」


自己の過失を棚上げし、自制の効かない欲望を吐き出して、女性に肉体的/精神的苦痛を与えている主体が、更にその女性を攻撃する。この醜悪極まりない口実、つまり、冒頭でも述べたように、「加害者が被害者に対して更なる害悪を自覚的/無自覚的に加えようとする」場面は様々なところで散見される。


交際中にある男Aが女Bと口論になり、女Bは沈黙した。男Aが何を言っても女Bは沈黙を守るばかりである。そこで男Aは言う。「なにいじけてんだよ!黙ってたら何にもわかんねえだろ!原因言えよ、言ったら解決できるかもしんねえじゃん」


その沈黙は男Aが理解できない人間であると諦観した女Bの答えである。男Aは自己が無自覚的に女Bを加害した可能性について、一切の罪悪を持っていない。自己の過失を棚上げし、沈黙した被害者に対して、何故沈黙するのかと叱責する。ここで仮に女Bが「〜〜と言われたのが心外だった」と真摯に述べたとしても、「そんなことかよ、だったらそん時に言えばいいじゃん」と叱責するであろう。


人のモノを壊しておいて、「大事なモノだったらちゃんと自分の部屋へ置いておきなさい」と、かつて私の母は言ったが(デスノートブレスレット・バラバラ事件(BB事件)参照)、それもまさに、被害者に自衛を促す加害者の常套句である。諸悪の根源である貴君らの言動の全ては、どこにいってしまったのだ。