道化が見た世界

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私とウンコについて(2)

 結局のところ、私は私のウンコとその一日を共にした。しかし、本当に信じられないことだが、クラスの誰一人として私がウンコマンであることを悟る者はいなかった。


 もし、なんびとが私のウンコのほのかなカホリを察知し、「何かにおわない?」「本田君の周りなんか異臭が漂ってない?」などと吹聴していたのならば、私の人生は早々に終焉を迎えていただろう。


 小学校の6年間、私の呼び名が「ウンコマン」として定着するに留まらず、私とウンコの物語はやがて伝説となり、ウンコマン・レジェンドとして後世に伝承され、おそらくOBとなった今でも「あぁ、彼が例の・・・」と後ろ指を指されていた可能性も否めない。考えるだけでもゾッとする。


 とは言っても、やはり私の秘め事を知っていた人間は、いたのである。それは、私の担任の先生であった。帰りの会が終わり、無事に誰にもばれずにウンコと共に家に帰還できると安心して教室を出ようとした矢先に、担任の先生であった照沼先生(名前もちゃんと覚えている)に「本田君ちょっと待ってて」と言われたのだった。


 私はギクリとした。ウンコのほのかなカホリは、先生にはきちんと届いていたのか、いや、ただ単に事務的なことを伝える為に私を待たせているだけかもしれないと逡巡した後に、先生が私の目の前まで来て「トイレに行こうか」と言った。やはりバレていた。


 私たちはその後、職員室の隣にあるトイレに向かい、先生が着替えの服を持ってくる間に、ウンコをトイレに流しておいてと言われたが、なんだか先生に私の下半身を見せるのは恥ずかしかったので、私はただトイレに佇んでいた。結局、着替えの服を持ってきた先生に「なんで何もしてないの!」と若干怒られたので、シュンとなって、服を脱いでウンコをトイレに流した。


 おしりも綺麗に拭き、可愛らしいお猿さんの描かれた黄色いTシャツとズボンに着替えて学校を後にした。帰り道の途中に、私の姉とその友達に偶然遭遇して、服が変わっていたことを怪訝に思われたが、適当にスルーした。


 次の日、私は洗濯した着替えの服を袋に包み、「ありがとうございました」といって先生に返却した。先生は笑っていた。私とウンコの物語を知っていたのは果たして先生だけだっただろうか?もし、他の人間も知っていたとするのなら、私は彼らに感謝したい。彼らがそのことを黙秘してくれていなかったら、今こうしてストーリーとして回顧することはできなかっただろうから。