道化が見た世界

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パワー概念としてのファルス(3)

前回、割愛すると宣言していた「場の空間的席巻」の具体内容である秩序形成、発言権の相対的強化、大衆の支持獲得を、やはり順を追って解説していくことにする。そして最後に、私が最も注目している効用「他者の緩やかな排除」について書き記していきたい。

■秩序形成
前回述べた様に、ファルス学がその前提として想定する人物は、共同体に調和を調達できる主体である。その主体に課された責務は、場の空間的席巻であり、その空間内における秩序の形成である。


そして、「調和」とは、その共同体の構成員の最大多数が満たされている状態を言い、その状態がファルス主体によって維持されている限り、「秩序」は保たれている、ということになる。


ファルス主体が志向すべきは、総体としての調和であり、原則として、個人的感情は優先すべきではない。たとえば、個人的に好意を抱いた女性に対して、独占的に会話をすることが可能な特権的立場にいたとしても、その場合に崩れる全体の調和を考慮し、後者を優先しなければならない。


故に、ファルス主体は共同体全体を見渡すことのできる、一種の俯瞰能力を有していなければならない。個人的な利益よりも、全体的な調和、一体感を愛すことのできる人間でなければならない(それは翻って、自分の能力を愛しているということになるが)。


また、原則として共同体構成員の最大多数が満たされている状態が望ましいと述べたが、その調和を形成するにあたって、許容範囲を超えた人間、つまり、ファルス主体が、その人間を含めると全体としての調和それ自体が成立しないと判断した人間に限っては、その人間を共同体構成員としてカウントする必要はない。簡単に言えば、彼は一種の「障害物」として、排除の対象となる。そうすることにより、結果的には、共同体構成員の最大多数が満たされる状態となる。


■発言権の相対的強化
共同体内で発言権の高低というのは、構成員各自に上下関係(先輩、後輩)などの諸要因が無い限り、まずは横一線に並ぶ。この状態を白紙状態とし、その中で力を握る人間の要素の一つとしてファルスが挙げられる。


長期的に維持されることが期待されるクラスやゼミ、サークルといった共同体内でのファルス主体の発言権は、それぞれの共同体の環境によって異なる。


大学などの「流動的な社会構造」では、その力を確立することは比較的困難であるが、中高などの「固定化された社会構造」の中では、その力を盤石にすることが可能である。また、短期的な会合やパーティーの場など、全構成員が初対面である時には、その空間はファルス主体の独壇場となる(発言権の一点集中化)。


ファルス主体は、共同体内における発言権の相対的強化によって、積極的に調和形成へアプローチすることができる。


■大衆の支持獲得
ここで簡単に流れの説明をすると、


ファルスによる大衆(共同体構成員)の支持獲得→ファルス主体の発言権の相対的強化→秩序形成


といったようになる。つまり、ファルス主体は、常に共同体構成員の支持を調達し得るファルスを用いなければならない。これが、ファルス学が前提として想定する人物像、共同体に調和を調達できる主体たる所以である。


以上を以って、具体的内容の三項目の解説は終了である。先延ばしになっている感が否めず恐縮であるが、最終項目である「他者の緩やかな排除」は次の論述にまたまた譲ることにする。次章を以って、パワー概念としてのファルスは完結する。