道化が見た世界

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ウケる為の心構え STEP1

まず、ユーモアセンスを磨く為の出発点は、「いかにして、笑いと向き合うか」を想起し、その姿勢を作り上げることにあります。この段階が、最も基礎的なことであり、かつ、最も重要なことなのです。


人を笑わせる為には、少なからず羞恥心を払拭しなければいけません。これこそが第一の最低条件になります。とは言うものの、羞恥心はそう簡単に払拭できるものではありません。自分が面白いと思ってした発言が、場の雰囲気を一瞬にして凍りつかせてしまうかもしれない、という気後れもあります。この精神論は強引な感が否めませんが、笑いを武器とする人間は、「場が凍り付いて当たり前」の気概で積極的に笑いにアプローチしていかなくてはなりません。完全にこの境地に達する事は人間として 大変に難易度の高いことです。僕は、その人の努力次第で一定のユーモアを身に付ける事ができると断言しましたが、それは決してお手軽なものではありません。数々の犠牲―サクリファイス―を強いられます。しかし、それでも尚、自分は笑いに対して貪欲に生きていくんだ、という気概が必要なのです。


この事例が最も顕著に現れるのが「一発芸」をする時です。一発芸とは、不思議な事に、自ら進んでやるということは滅多にありません。他人に強要されてやらなければならない状況になってしまった、という場合がほとんどです。そして一般的に、一発芸をする場合は、皮肉な事に、カナリの高確率(100%といっても遜色ないぐらい)で場が凍りつきます。脅威的確率です。しかし、逆に言ってしまえば、「一発芸」こそ羞恥心を払拭する為の絶好のアプローチになります。人を笑わす難易度が極度に高い為、それが返って「場が凍り付いて当たり前」という心理を働かせてくれるからです。故に、究極的な理想を言ってしまうと、他人から強要され、外発的にする「一発芸」ではなく、自ら進んで、自発的にする「一発芸」への転換―シフト―が必要なのです。僕が思い描く理想郷は、皆が自ら進んで「面白い一発芸考えたから見ろ!」と豪語してくれる世界です。


そして更に、その一発芸を行うにあたって、一般人が陥りがちな、最も注意しなければならないことが一つあります。それは、自分の一発芸(便宜上、ここではレッド吉田の「パン!パン!ここジャパン!」)が終わった瞬間に、誰よりも先にフッと笑ってしまうことです。これは絶対にしてはいけません。一発芸を敢行した人間は、極度の羞恥が体中を駆け巡り、そしてそれは「周囲の誰もが笑わない」という現象によって、いよいよ耐え難いものになり、結局耐えかねて自分がフッと笑うことでしか解決できずに、その場からフェードアウトします。この時、彼がすべき唯一の行動は、 「俺は立派にも一発芸を完遂した」という自負心を持ち、悠然とその場に立ち尽くすことです。一発芸を完遂したのだから、胸を張って立っていれば良いんです。ここに、一般人と笑いに賭ける人間との差が大きくみられます。些細な誤差に見えますが、これは疑い様もなく雲泥の差です。一発芸敢行者が先にフッと笑ってしまうと、その場が凍りつくだけに留まらず、もっと根源的な次元で、その場を破壊します。凍りつかせ、かつ破壊―デストロイ―します。それだけはしてはいけません。そして勿論、笑いながら一発芸を敢行するなんてことは、ピース・オブ・シット。つまり、糞の集大成になってしまいます。


という事で、後半辺りからだんだんと熱がこもって来てしまいましたが、今回のSTEP1を要約すると、「羞恥心を自ら進んで捨てよう」という心構えを持つことです。
なかなか出来ることではありませんが、完全にとはいかないまでも、少しでも羞恥心を捨てる努力をしてみましょう!