道化が見た世界

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カルト宗教団体 VS 俺

 大学入学当初から、カルト宗教の勧誘に遭遇する機会に恵まれていた私は、再び今月初旬、駅前で怪しげなアンケートに答えていた。彼らの表向きは、就活を支援するスクール「HER-S(ハーツ)」という団体だった。


 私には、これまで積み重ねてきた経験によって研ぎ澄まされた直感があった。これはカルトくさい、という直感があった。それに加え私には、自己は他者によって洗脳されないとする底知れぬ自負があった。


 「再構築された俺の信念を試す時が来た。これは精神的な次元での決闘である」私はひとりごちた。


 時は今日、指定された場所に私は向かい、担当の宇治橋と名乗る男と共にHER-Sの活動拠点である新宿の某ビル7Fに赴いた。


 まず、私がビル内部に入って異質だと感じた点は、同フロアに居た生徒達がそれぞれ大声で、彼に向かって「こんにちわ!」と叫んだことにあった。私はそれを、本来あるべき挨拶として認識することができなかった。もっと機械的な、無機質的な何かであると察知し、いたたまれない気持ちになった。


 次に私はビル内部を一瞥した。壁には「東京1番隊」から「東京5番隊」からなる組織図が記された模造紙が貼られていた。更によく見てみると、都道府県別にそれぞれ細分化されており、組織の規模の大きさが窺えた。


 「組織規模的には、かのダンスサークルに匹敵するレベル・・・」私は身震いした。しかし、何番隊隊長、というのは余りにも安易すぎる。というかダサすぎる。新撰組的観点を加味した上でもダサい。私はHER-Sのガキっぽさに辟易した。


 その模造紙の下には沢山の写真が貼り巡らされていた。その中で印象的だったのが、俯瞰カメラで撮っ写真で、HER-Sの生徒達がそれぞれ色の違ったポロシャツを着て(おそらく都道府県別)、「威風堂々」や「一生懸命」という四文字熟語を人文字で作っているものだった。


 「この不可解な人文字活動と、就職活動における有意な関連性はあるのだろうか」私は困惑した。


 そして、ガイダンスという形で個別に区切られた部屋に招かれ、マンツーマンでの面接が始まろうとしていた。私は身を引き締めた。私はこの時、皇帝としての自負を身にまとった。

 
 「それじゃあ始めようか。今日は就職に関して聞きたいことがあるということだと思うんだけど、将来どういう仕事をしたいとか、そういうことってちゃんと決めてる?」


 「はい、世界的なコメディアンになる予定です」


 「え?」


 私と宇治橋の戦いの火蓋が切って落とされた。