道化が見た世界

エンタメ・エッセイ・考察・思想

小説

【短編】体毛全面戦争(2)

「ワシはこの世界が創世された頃からずうっと、この洞窟を守護し続けて来た。この世界の歴史も知悉しておる。だからいくらかは、お前さんの力になれると思うがね」洞窟の最深層に佇む鼻毛の長老はカラカラと笑いながら言った。彼の毛色は真っ白であったが、…

【短編】体毛全面戦争(3)

【短編】体毛全面戦争(1)

私は鼻毛である。生息地は二つある洞窟の内、右側の洞窟である。地理的には近いものの、左側の洞窟にいる同士諸君との接触はほとんど無い。というのも、私達はこの洞窟の外に出ることを忌避しているし、出る必要もないと思っているからだ。しかし最近、乱心…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(7)

CISから家に帰ってすることと言えば、遊戯王かゲームかバスケか卓球かの、四者択一だった。 この『カルカッタ・ラプソディ 7』の構想を練っている時、私は冒頭の文句を「暇だった。」で始めようと決めていた。他者とのコミュニケーションもままならない閉塞…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(6)

演劇にカタルシスを感じる人は多いのではないだろうか。演者としての自己に、ということだ。 私は、自己ではない何者か―他者―に変身できるということは、とても新鮮で清々しいことだと思う。何故なら、ストーリーの設定上であれば、人を完膚無きまでに馬鹿に…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(5)

邪悪なる組織CISには、どういったことか、トイレが2つしか存在しなかった。個室のトイレが別個にそれぞれ2つあるだけだった。 「需要と供給の釣り合いが皆目計られていない。何ぞこれ」ホンディーヌ一同は戦慄した。 2つしかない状態のトイレは無論、常時…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(4)

私達三兄弟(世間一般では「ホンディーヌ三兄弟」という通り名を持つ)は、地元にあるカルカッタ・インターナショナル・スクール(CIS)という学校に通うこととなっており、そこで主眼として掲げられた目標は、無論、神聖なるインディアン・イングリッシュ(…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(3)

「WE LOVE INDIA! WE LOVE INDIA!」ホンディーヌ家の一族は雄叫びをあげた。 言葉には魂が宿ると言われている。言霊というヤツである。つまり、「私はインドを、こんなにも愛している」と声に出して表現してみることで、たとえ真に愛していなくとも、インド…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(2)

私はついにインドの地に降り立った。飛行機から降りた瞬間に感じた、あの常軌を逸したモヤモヤ湿気の不快感は、筆舌に尽くし難い。尽くしがたいので書くことが出来ない。 「ああ、もうこれは完全に異世界だ。記念すべきインドへの第一歩目で、もう既にI miss…

【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(1)

◎登場人物 父:かげお 母:ヒカ子 兄:豪鬼 姉:ヒメ子 私:チンパン ◎はじめに この、「カルカッタ・ラプソディ」という小説は、私が大学二年生だった2009年05月からmixiで勝手に載せていた作品である。私が小学5年生から中学1年生まで滞在していたインドに…

内向的少年の純愛的煩悶

少年は高を括っていた。恋愛によって自己の精神が揺れぬことを、最早、空虚で無機質な肉欲によってのみでしか、自己が突き動かされることのないことを悟っていた。 人と接することで芽生える愛という感情は、所詮、美辞麗句に過ぎず、称揚された幻想的概念に…

殺意の遺書

Aは、古き良き時代の友であったBの自室に入り、立ちつくした。 Bの自室の机上には彼が遺したとみられる遺書が、ただポツネンと置いてあった。 その部屋には既にBの姿は無く、遺書の包みに書かれた「遺書 竹馬の友A君へ」という文字だけが残されていた。…

こころは見えないけれど

先日電車に乗った時、奇遇にも席が空いていたので座っていたんだが、自分が乗った次の駅で腰がベンドしてるおばあちゃんが乗車してきた。僕は、その瞬間、そのおばあちゃんに席を譲ろうかと思ったが、断られたらどうしようと、誰もが経験する葛藤に、例によ…