道化が見た世界

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学歴について

学歴について僕が語りたいことはいくつかあります。そもそも学歴というのは、個々人の社会的価値をはかる大きな一つの尺度であり、それが高ければ高いほど社会的な力を有する(あるいは発揮しやすい)ものだと思います。

 

基本的に社会的に勝ち組と謳われているのは、いい大学を卒業して誰もが聞いたことのある大企業に就職している人種だと考えられますし、例えば結婚する場合にも、両親や親族がまず第一義的に関心を向けるのはその男性ないし女性がどこの大学を卒業し、どこに就職をしたか、ということになると思います。

 

そしてそんな僕の最終学歴は慶應義塾大学法学部政治学科2012年卒なんですが、僕は一度たりともその自分の学歴を社会的価値のあるものとして認識したことも、執着したこともなく、ありていに言ってしまえば、気が付いたら息をするように入学していたということになります。

 

僕が慶應大学を卒業後に売れない芸人&売れないホストのレールに自らの意志で乗ったことからもお分かりのように(売れていないのは本意ではない)、僕は自分の学歴に対してなんの頓着もしていません。もし仮に学歴に頓着していたのなら、まず芸人の道には進んでいなかったでしょう。

 

そういう僕の目から見て、非常に特異に映ったことがあります。たとえば僕がふざけてある人の学歴(自分よりも低学歴)を、自分の高学歴を盾に小馬鹿としましょう。「え?そんな大学行って、なんで自らの経歴を自ら汚すの?」と言った具合に。そうすると、彼は急に血相を変えて憤怒の色をあらわにしながら、「学歴だけ高くても人間性ははかれない。肩書きにしかすがれない、中身空っぽの男だキミは!」と反論してきます。

 

僕はその時に、どうしてこんなにも急激に怒るのだろう、と思いました。ちょっといじったくらいで、なんでこんなに人間性を否定されなければならないのだろうと。それから少し経って考えていたところ、僕がはたと気が付いたのは、学歴を馬鹿にされることは彼にとって「人間性を否定」されたくらい重い言葉だったのだ、ということです。

 

つまり、彼の中で、学歴という社会的価値はとてつもなく大きなものであり、そうであるが故に、人間性を否定されたという強い拒否反応として僕に言い返してきたのです。ひるがえって僕は、学歴に社会的価値をあまり感じない人間ですから、学歴いじりというのは僕にとって、ほぼ確実に勝てるディスりカードの一枚くらいでしかなく、結果として僕と彼の温度差、距離感をとても特異に感じたのです。(蛇足ですが、学歴を持たず、さらに曖昧模糊とした人間性という概念にすがっていた彼の人間性は果たしてどうだったのでしょうか。)

 

僕はその一件で、社会が学歴という価値を見る目と、僕自身がそれを見る目との間にだいぶ大きなギャップがあるなというのを感じました。

どちらかと言えば僕は、人を学歴という属性だけで見て、より高ければ高いほどよいと感じ、阿諛追従する俗物的な感受性を忌み嫌っています。ですから、たとえば慶應卒の同級生などが学歴という大きな社会的価値のみを盲信し、さもそれが全ての絶対的な価値尺度だという態度を取っていた場合、虫唾が走ること請け合いです。そういった空間にはいたくないですが、悲しいことにそういう感受性が世の中の大半を占めるのは事実です。

 

僕は今現在、売れない芸人と売れないホストをしている訳ですが、ときたま、ホストクラブに大学生がくることがあります。お笑い芸人の世界もホストの世界もそうですが、そこにはほとんど大卒の人間はいません。つまり、社会的に見れば低学歴層であることは一目瞭然であり、それを意識的にでも無意識的にでも感じている大学生(つまり、学歴を絶対的価値として盲信する大学生)の態度は少し上からというか、ニュアンスで感じられる程度ですが、僕たちを馬鹿にしている、横柄な感じがしました。

 

学歴を鼻にかけているな、と僕は感じました。接客中に、大学生なんですかと質問し、どこの大学ですか、サークルは何をしてるんですか、などと掘り下げているうちに彼女はおそらく僕も大学に通っていたのだろうと思案したと思います。

もう少しだ、と思いました。もう少しで彼女は僕に、「どこの大学行ってたんですか?」キラーパスを出してくるはずだ。自分から大学名を言ってはいけない。その答えはあくまでキミの質問への返答と言う形で提示しなければいけない。はやく!はやくパスをくれ!俺をバカだと思ってさぞ見下していることだろう。その俗物的な価値観に毒されて、さぞ俗物的生活を満喫しているに違いない。しかし!キミのパスでその世界は音を立てて崩れ去るであろう!嗚呼早くキミが呆気に取られているおめでたい顔を拝みたい!キミがその俗物的価値観に支配されているなら支配されているでよい!キミがそこの世界に安住し、他人を上から目線で見下ろすならば、私もあえてその同じ土俵に降りて戦おう!さあ!早く!質問をするんだ!さぁさぁ!!

 

 

「どこの大学行ってたんですか?」

 

慶應義塾大学部法学部政治学科2012年卒です」 

 

「「MARCH風情が、図に乗るなよ!」」