道化が見た世界

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私の肺からエアリーク (2)

 私はママが運転する車に乗って大学病院に到着した。到着するや否や、担当の医師に通され、点滴の針を刺しがてら採血をされた。


 私は痛いのが人一倍嫌いな青年である。一般の血液検査でも、心を落ち着かせて深呼吸を数回しなければ注射針に向き合えない青年である。ゆえに点滴の針がさも当然の如く流れ作業で刺された時、私は今回自分の立っている土俵が既に向こう側へ行ってしまっていることを悟り身震いした。


 私の三分の一に縮まった肺は、既に自然治癒では治せない状態になっており(症状が軽度の場合は安静にして自然治癒を図り、重度の場合は手術となる)、漏れた空気を抜く為に胸腔ドレーンという管を脇腹にぶっ刺す必要があった。私が医師に、その胸腔ドレーンは点滴するよりも痛いですかと問うと、はい痛いですと即答された。



やはり。



 私は悟りきった表情をたたえながら遠くを見つめた。その宣告を受けてからすぐに車椅子で個室に運ばれ(初めて車椅子に乗った)、ベッドの上で体を横に寝かされ、その胸腔ドレーンをぶっ刺すフェーズへと進んで行った。


 手際が良すぎる。あまりにも迅速である。まだ心の準備が出来ていない。速すぎるが故にまだ心が整っていない。上半身を裸にしてぶっ刺す箇所だけ穴の空いたブルーシートの様なものをかぶせられる。視界が青くなり何も見えない。むろん前も見えない。担当の医師が「じゃあ始めます」と宣告する。まだです。まだ準備が出来ていません。心の。脇腹が消毒されてヒエヒエしている。もう来るやつじゃん。これもう来るやつじゃない。目をつぶる。もう目をつぶる。「はい、ちょっとチクッとします」。麻酔や。これ局所麻酔や。痛い。麻酔痛い。「はい、二本目行きます」。二本目もあるんかい。痛い。少し間があく。



「今から、管通します(ドンッ★)」



 圧倒的に痛かった。麻酔が効いているのは、1センチちょい切った脇腹周辺だったと思うが、胸腔ドレーンは私の胸腔奥深くへと侵攻してきているのであり、圧迫感による痛みと恐怖を私は味わった。


 少し話がそれるが、私は大学生時代に謎の腹痛に悩まされ、大腸検査をしたことがあった。それは大腸カメラをお尻の穴(マイ・エイナル)から突っ込むものだったが、カメラが私の大腸半ばに差しかかった頃合いに、ものすごい圧迫感、例えるならば「エイリアンが腹から出てくる」感を覚えたのである。つまり私は「エイリアンが肺から出てくる」感を胸腔ドレーンでも同様に味わったのである。


 ドレーンが通り、処置が終わると、強烈な肺への違和感と痛みに襲われた。肺に鉄板が斜めにぶっ刺さってる感じの圧迫感があった。その時私は38度の熱と、断続的に続く咳にも悩まされていたが、診断の結果、それは肺炎であった。私は肺気胸と肺炎を併発していたのである。


 こうして私の入院生活が始まったのである。
(続)