道化が見た世界

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【復刻版】カルカッタ・ラプソディ(2)

私はついにインドの地に降り立った。飛行機から降りた瞬間に感じた、あの常軌を逸したモヤモヤ湿気の不快感は、筆舌に尽くし難い。尽くしがたいので書くことが出来ない。


「ああ、もうこれは完全に異世界だ。記念すべきインドへの第一歩目で、もう既にI miss my Japan.」私はそう呟いて、隣にいた豪鬼の方に顔を向けると、彼は大粒の涙を流していた。その涙が彼の、インド全域及びインド人へ対する比類なき憤怒を表しているであろうことは、容易に想像がついた。このインドといった異世界で、ホンディーヌ家の一族は果たして生活してゆけるのだろうかと、私は心底不安になった。


しかし我々は生き抜かねばならぬ。この先降りかかって来るであろう幾多の試練を乗り越えることでしか、ホンディーヌ家の一族の加速度的発展、並びに、かのガンジーが目指した真理の把握は有り得ないのだから。モモちゃんがキリッとした顔で皆を諭す。


私達は空港を後にし、早速ホンディーヌ邸に向かおうとしたが、まずそこで私がビックリしたことは、空港にホンディーヌ家専属ドライバーが迎えに来ていたことであった。「やはりインドは異世界だ、なんか色々ヤバイ」私はそう嘯き、メルセデス・ベンツに勢い良く乗車した。


そのドライバーは、名をバッハドゥールと言った。私はすかさず、「貴殿は、かのムガル帝国ラストエンペラーであるバッハドゥール・シャー2世の末裔でおられるのか」と問うたが、彼は少し間を置いて「は?」と答えるに留まった。それに呼応する形で、何故か豪鬼も「あ?」と憤怒を露にしていたが、ことの実態は良く分からなかった。


かの様な経緯ののち、我々はホンディーヌ邸に到着した。イメージとしては、一面焼け野原にある、三匹の子豚の物語で一番怠惰なブタが作った様な家に住むのかと思っていたが、思いのほか立派だったので仰天した。


「ああ、まさにこれぞ帝国と呼ぶに相応しい」
バッハドゥールがしみじみと呟いた。一族もそれに頷いた。

(続)