道化が見た世界

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内向的少年の恋愛的煩悶

もし仮に、私が自己批判の眼から免れることができ、他者を一方的に糾弾する特権を手に入れたとするならば、私は彼を許さない。何故なら、彼は私が欲する人を手に入れたからである。


彼に備わっている人間的魅力というものを、私は皆目理解できない。だから、私にとって不可視なその力によって、彼女が彼に引き寄せられたことなど、尚更理解できるはずもない。


しかし、理解したくはないが、厳然たる事実として彼らは幸福である。その完結的、相互補完的な幸福は、私にとってどういった意味合いをもたらすだろう。それは、私という存在の抹消である。


彼は、私が見たことの無いような、他の誰にも見せたことの無いような、彼女の笑顔や仕草や情緒を特権的に手にいれるだろう。そして、彼はその至福を私に雄弁に語るであろう。


私と接する彼女は最早、彼女であって彼女ではない。本当の彼女は、彼によって遥か彼方へと奪い去られたのだ。


ここに至って、私は知るのである。私の彼女への思いはひとえに自惚れと自愛に過ぎず、絶対的な距離を隔てて彼らの幸福が厳然と存在することを。