道化が見た世界

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ウケる為の技術

先ほどまで紹介してきた「ウケる為の心構えSTEP1〜3」は、私が去年の1月頃に執筆したものである。あの頃はちょうど自己の価値体系と社会のそれとが合致しないことに対して苦悶していた時期で、文章の中からは垣間見えないが、切迫したもの―つまり、自己の価値体系を社会へ開示し承認されようとする気概、対抗心―を感じることができる。


 私には、苦悶を抱えていた当時の私を未熟な存在として位置付けてきたきらいがあったが、それを抱えていなければ自己の価値体系を点検し、それを言語化し整理するといった一連の作業をできていなかっただろうし、あのような形でファルスを昇華できたことに関しては、暫定的にであっても成功であったと言えるはずだ。


 前置きが長くなったが、ウケる為の心構えを習得した次の段階の話をこれからしていきたいと思う。これから述べる事はファルス(人を笑わせる力)の本質的な部分である。


 face-to-faceのコミュニケーション、つまり、speaking領域のファルスにおいて重要になってくることは、発話者の表情の多様性・口調の抑揚、緩急、変化・テンションの高低・身体を用いた動作の有無などの要素を有機的に連動させることである。これらの要素を巧みに使うことができれば、彼の笑いの振り幅は指数関数的に広がると言っても良い。


 例えば、「変顔」というモノがある。写真を撮るときなどにたまにするアレである。「変顔」は上述した箇所では「表情の多様性」に当てはまる。確かに、「変顔」単体で人が笑うことはあるかもしれないが、それは笑いのレベル的に言うと、低次元なものであると言わざるを得ない(変顔対決などはユーモアセンスの欠片もない、かもしれない)。


 「変顔」などの要素を「有機的に連動させる」とは、たとえば、あるまとまった面白い話の中で、登場する人物のシチュエーションに応じて(痛がっている状況で、痛がる顔をする等)「変顔」をその文脈(コンテクスト)へと組み込む作業である。そうすることによって、その話の面白さは深みを増すことができるだろう。


 また、普段の会話の中で変顔をすることは、その会話のコンテクストの中に変顔を直接的に組み込んでいるということになるが、変人の烙印を押されかねないので注意が必要である。最も安全な方法は、上述したように、間接的に「面白い話の中」で「変顔」を用いることだろう。


 総括すると、表情の多様性を培いたいのなら鏡の前に立って小一時間自分の顔とにらめっこし、色々な表情を試してみよう。口調の抑揚や変化を身に付けたいのであれば、テレビでドラマを観ている時に、役者になりきって彼/彼女が発した台詞を逐語的に繰り返してみよう(演技過多になるぐらいがちょうどいい)。テンションの高低を自覚的に認識する為には、一度black eyed peasのi gotta feelingを爆音で流し踊り狂って、非日常のテンションを手に入れてみよう。身体を用いた動作をより俊敏にしたいのであれば、はんにゃの金田君の動きを参考にしてみよう。

 そして、日常会話でこれらのスキルを意識的に用いることによって、貴方のファルスの振り幅は間違いなく広がることでしょう。次の回からは、それぞれのスキルを掘り下げて詳述していきたい。