道化が見た世界

エンタメ・エッセイ・考察・思想

カルト宗教団体 VS 俺 2

 世界的なコメディアンになる予定です。この一言で私の勝利(自己の信念を他者に披瀝し、その論理的整合性を確かめ自己満足に浸ること)は確定していた。


 何故なら、そう言い放った瞬間に、私にはその結論(i wanna be a comedian.)に至った説明責任が課せられるからである。その責任が果たされるまで、カルト宇治橋のターンがやってくることは無い。


 私は、自己が如何に笑いを偏愛しているかについて滔々と語った(幼少期から大学時代に至るまで)。そして、その後に、ファルス(道化)の革命性(社会変革性)、ファルスの領域、ファルスの攻撃性(後者二つは、未発表の論文である)について順々に、丁寧に説明を施していった。全てを説明し終わった時には、既に一時間が経過していた。


 宇治橋は、それらを最後まで聞き、もどかしそうに笑っていた。私は満足げな顔をしながら彼を見て、


 「いやあ、かくかくしかじかで、面白い人はモテると思った節があったんですけど、やっぱりハイテンションでまくしたてると、変人っていう認識が先行しちゃうんですかね。これは僕の戦略的ミスだと思うんです。大学マジでやり直したい」


 と言った。宇治橋は、私の友達感覚の距離感に違和感を抱いていただろうが、終始苦笑いで対応するだけだった。そこでたまたま、宇治橋宛てに電話が鳴ったらしく、彼は一旦席を立った。


 私は、語り疲れからくる疲労で、だらんとした体勢をとった。ちょうど明日のジョーが灰になった時と同様に、私も灰になった。私のミッションはコンプリートされたのだ。


 そこに、宇治橋が戻ってきた。先ほどと態度が違い、どこか毅然としていた。そして、彼は開口一番で「ちょっと本音で話し合おう」と切り出した。


 面白くなってきた、私は直感した。私は疲れ果ててはいたが、彼がいかなる力を有しているか、いかに他者を洗脳するのか、そのスキルを見たくなってきたのであった。


 「道化君、まずなんか姿勢が悪くない?なんていうか、男らしくないよ。それじゃあ駄目だと思うんだよね、うん。ちゃんと胸張れる?さっきモテたいって言ってたけど、それじゃあモテないよ」


 「ですよね、そう思います」


 宇治橋は自分のターンがなかなか来なかったことで、腹が立っているに違いなかった。私は彼の豹変ぶりに、ここからが彼の本領発揮なのだと期待し、宇治橋かかってこい、と心の中で小さく呟いた。


 「俺、本音でしゃべるから、道化君も本音でしゃべってほしいんだ」


 「はい、わかりました」


 「正直なところ、今、就活とかに興味ある?」


 「う〜ん、まあ、ぶっちゃけると、全くありません」


 「じゃあ、今日は具体的になんの目的でここに来たのかな?」


 「自分の信念を聞いてくれる人が周囲にあんまいなくて〜・・・、大人の人ならある程度は聞いてくれるかなと思って、そういう場を求めて来ました。というか純粋に話し相手がほしかった。不純な理由ですいません」


 ここで宇治橋は苦笑いをして、「いいよいいよ」と言った。おそらく、私とは永久に平行線上を辿ってゆくことを悟ったのかもしれない。


 「あ、あとサークルの飲みが19:30からあるんで、できればあと20分ぐらいで抑えてもらいたいんですが・・・(嘘)」


 「そうか、わかった。じゃあ僕もある程度は話さないといけないから、ちゃんと聞いててね」


 カルト宗教団体の特徴は、その長(HER-Sでは学院長)、を異常なまでに尊敬・崇拝している点にある。彼らが語る話の内容の中には必ず、長がこういった偉業を成し遂げた人物であるだとか、色々なところにコネがあって影響力は絶大だとかいう類のモノがある。そして、それを支持する支持者の数を、こんなに沢山の人が賛同しているんですといって、大多数の客観的な評価を認めさせようとする。しかし私には、彼ら尊敬・崇拝する学院長が、ただの老いぼれじじいにしか見えなかった。


 正直、この程度なのか、とカルト宗教に幻滅してしまった節があった(幻滅というのはおかしいが)。宇治橋はそれに加えて、自分がいかに真面目な人間で堅実に生きていたかを幼少期の頃から遡り、私に伝えてきたが、どう考えても彼の話はセオリー通りすぎていて、とってつけた感が否めなかった。


 ある程度軽い話になった時に、宇治橋が「道化君って、人生をゲームみたいに楽しんでる感じなのかな?笑いっていう信念を持つのも大切だけど、それだけじゃ社会でやっていけないよ。」と言ってきたので、


 「そうです!まさに一種のゲームみたいなもんなんじゃないですかね。まあ結局人生は茶番ですよ、茶番。宇治橋さんもそう思いませんか?」と答えたが、やはり宇治橋は、ははっと苦笑いをするだけに留まった。純粋につまらないと思った。


 残り時間五分に差し掛かったころ、宇治橋も折れたのか、もう就活に関して言うことは無くなり、私の笑いの信念に関する話題へとシフトした。


 そこにおいても何かしら一悶着あり、「仲間が必要なんじゃないか?居場所が必要なんじゃないか?」と投げ掛ける宇治橋に対して、「宇治橋さんがそう認識ている仲間や居場所っていうのは、幻想に過ぎません!うん!」と、答えると、宇治橋は波動やなにやら曖昧な事を言い出して、結局お前の認識もその程度か、と思わざるを得なくなった。


 カルト宗教も所詮は俗物なのである。やれやれ、私は思った。


 そして、結局最後は「コメディアン頑張って!TVでたら宜しく!」的なノリで宇治橋とはお別れをした。


 一番の心残りは、面接担当の女性で一人、美人な方がいて、彼女に「こんなカルト宗教なんかやめて、是非とも私の組織(つまりホンディーヌ帝国)にいらしてください!貴女なら快く迎い入れますよ」と言えなかったことである。彼女の胸の大きさが印象的だった。なむなむ!